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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2965号 判決

当事者参加申出人

大京商事株式会社

右代表者

渡部芳男

右訴訟代理人

横山寿

相手方

破産者箭内八重破産管財人

臼杵祥三

外二名

主文

本件申出を却下する。

申出費用は申出人の負担とする。

事実及び理由

申出人は、破産者箭内八重破産管財人臼杵祥三を原告とし、大森益満及び牟田正彦を被告とする昭和四九年(ワ)第四三二五号土地建物所有権移転登記手続請求訴訟事件(以下本案という。)について、民事訴訟法第七一条により当事者として参加する旨申し出で、右本案当事者らに対する関係では、「本案被告らは別紙物件目録記載の不動産についての被告らの所有名義を無条件にて抹消する登記手続をせよ。参加による訴訟費用は本案当事者らの負担とする。」との判決を求めた。その請求の原因は別紙添付のとおりであつて、要するに、破産財団に属する財産の一部が和解によつて支払われることは破産債権者として黙視しえないから本件参加に及んだ、というのである。

本案が、破産管財人による財団に属する財産の返還請求訴訟であること、目下、証拠調前に訴訟上の和解が勧試せられていることは、いずれも申出人の主張のとおりである。もし、本件参加が許されるならば、民事訴訟法第七一条が第六二条を準用している関係から、本案の二当事者間での和解は許されなくなるので、その限り、申出人の当事者参加は所期の目的を達することになろう。

しかしながら、申出人の請求の趣旨は、民事訴訟法第七一条のいわゆる三面訴訟としての当然の前提である、本案原告への請求と本案被告への請求とを、本案の請求とは別個に要求するものではなく、むしろ単なる本案原告補助参加人の要求にとどまると見られる点において、同条の要件を欠くと解されるのみならず、そもそも申出人に民事訴訟法第七一条の参加人たるの資格すなわち当事者参加の原告としての適格があるか否かが問題である。

けだし、民事訴訟法第七一条は、同条の参加人の適格として、「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコトヲ主張スル第三者」であるか、「訴訟ノ目的ノ全部若ハ一部カ自己ノ権利ナルコトヲ主張スル第三者」であるかのいずれかであることを規定しているところ、本件原告が右の後者でないことは明らかであるから、問題となるのは右の前者に該当するか否かであるが、本件は、破産管財人による破産財団に属する財産の返還請求訴訟(予備的に、否認訴訟)なのであり、これが破産債権者の利益にこそなれ、これを害することにならないのもあえて論じる必要のないことである。従つて、一般論として、破産債権者は破産管財人の提起したこの種訴訟への当事者参加の利益がない筈である。

唯、申出人は、現在進行中の和解によつて権利を害される旨主張するので、更に考察してみよう。本案当事者間に現在進行中の和解は、訴訟の目的の破産財団への取戻をあきらめて金員による代償を求める方向でなく、取戻の本旨を完徹する代りに財団から何ほどかの金員支出をするという方向で行われていることは申出人の請求原因にもあるとおりであるから、結局、右の問題は、返還請求訴訟における右のような和解が破産財団に属する財産を減少させ、これを通じて破産債権者の権利を害することになるか否か、の一点に絞られることとなる。

案ずるに、総破産債権者に対する共同担保としての破産財団は、「破産者ガ破産宣告ノ時ニ於テ有スル一切ノ財産」(破産法第六条一項)を以て構成せられるから、抽象的には確定したものといえるが(いわゆる法定財団)、実際には破産管財人の占有している破産者の財産(いわゆる現有財団)は必ずしも法定財団と一致しないのであつて、現有財団に関する財産にして第三者の取戻権訴訟の対象となるものもありうるし、また、本来は法定財団に属しながら現有財団に属しない財産について、管財人が返還請求訴訟や否認訴訟を起したりすることも出てくるわけである。そこで、破産債権者がその債権の担保として抽象的に法定財団を観念しても、現実にこれらの訴訟が係属している場合には、その訴訟が終了するまでは、その訴訟で帰属の争われている特定の財産が破産財団に属するか否かは何人にも確言しえないのであるから、それが破産財団に属することを前提とする議論は失当ということになる。本件訴訟上の和解により財団に属する財産が減ずるとの申出人の議論は、まずこの意味で失当というほかはない。

もつとも、申出人は、右の法理をわきまえつつも、なお、和解で訴訟を終了せしめんとする管財人の行為が不当であると主張するもののようであるので、念のため、これにつき一言する。管財人の提起した返還請求訴訟なり否認訴訟なりが、当然判決によつて終了すべきもので、和解はそれ自体破産債権者の権利を害することになるとは到底言うことができない。訴訟の成行によつては、敗訴の判決よりも和解によつて事態を収拾するほうが、破産財団の利益になることもありうるからである。問題が残るとすれば、例えば、返還請求訴訟の目的たる財産を破産財団に取り戻すために、その財産の客観的価額や当該訴訟での勝訴の見込み等諸般の情況に照らして明らかに高額に過ぎる出捐がなされる場合であろう。しかし、破産法は管財人による破産財団の管理のため、管財人は裁判所が選任し、監督することとしたほか、更に破産債権者らが第一回債権者集会において監査委員を選任して管財人による財団管理の情況を調査する方途をも許しているのであり、更に、破産管財人は、職務執行につき、それを懈怠した場合には利害関係人(これには破産債権者を含むと解される。)に対する損害賠償責任をも伴う重い注意義務をも負うていること(破産法第一六四条)、通常は弁護士が選任されていること、等をも併せ考えると、具体的な訴訟において弁護士管財人が訴訟上和解による訴訟解決の道を選ぶことに対して、個々の破産債権者がそれを相当でないと争うことは許されないと解すべきものである。

右に詳しく述べたところから、本件申出人が、どのような意味においても、本件の本案訴訟への当事者参加の原告としての適格を欠くことは明らかであろう。

よつて、相手方の答弁をまつまでもなく本件参加は却下すべきものであるから、民事訴訟法第二〇二条を準用して口頭弁論を経ずに却下することとし、申出費用の負担については同法第八九条、第九四条に則つて、主文のとおり判決した次第である。 (倉田卓次)

請求の原因

一、原告は東京地方裁判所昭和四七年(フ)第一九一号並びに同四八年(フ)第九号破産宣告申立事件の破産管財人として其の否認権に基づき本件東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第四三二五号事件を提起したが目下原告は被告等と本件につき和解をしようとしている、そして和解期日を昭和五〇年四月一四日と指定されている。

二、併し本件不動産が被告等の所有名義に登記された事については被告等に於て破産者箭内八重と共謀し或は之を瞞し委任状不正使用、公文書不実記載及び詐欺罪等の容疑が確実と目される幾多の不法行為が行われていたし又被告等の依頼弁護士の斡旋に於て虚偽文書の作成、財産の不法移転等の不正が行われている容疑が深いのである。

又殊に本件訴訟事件に於ける和解に於ては数千万円の現金が原告から即ち破産財団から被告等に支払われようとしている。

三、以上の如き実情であるが元来破産事件に於ては管財人は国家の公権による権限を行使するものであるから破産管財人の権限の行使については常に公正確実なる事を要し、理論的根拠を欠く曖昧な処置は許容せらるべきではない。

従つて、原告の本件に於ける請求の趣旨に記載された原告の請求が全面的に認めらるべきか否かは、判決によるか、或は被告等側の全面的認諾による可きであつて、原告が本件訴訟に於て其の請求の一部を法律上の明確なる理由なくして譲歩し或は撤回することは許さる可きではない。即ち破産管財人の権限の行使は国家の公権によるものであるから、其の権限の行使については所謂『闇取引』は断じて許さる可きではない。

殊に本件被告等に於て前記の如く幾多の不法行為があつたと仮定すれば、被告等に対する本件訴状請求の趣旨は破産管財人に於ては全然譲歩する必要はなく、被告等をして全面に認諾せしむ可きである。

四、本件申出人は本件破産宣告申立事件の申立人であり、又破産財団に対する債権者である。従つて若し、原告たる破産管財人に於て数千万円の現金を、法律上の明確なる理由なくして被告等に支払うが如き事態がおこれば破産財団の財産は著しく減少して其の結果申出人は重大なる損害を蒙る怖れがあるのである。

因つてかくの如き利害関係のある事実に基き申出人は民事訴訟法第七一条の規定に基き当事者参加の申出をなした次第であります。

物件目録〈略〉

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